どうもいけちゃんです。
これまで【企業戦略】#1~#5ではSWOT分析を基に、企業の外部環境である脅威と機会、そして内部要因である強みと弱みについて把握する上で重要な様々なフレームワークについてお話ししてきました。
ここからは、
「企業が脅威を無力化し、機会と強みを最大限生かしつつ、自社の弱みを克服するための具体的な行動」
すなわち事業戦略について垂直統合・コストリーダシップ・製品差別化の3つに関して解説していきます。
尚、これまでも何度か言及してきましたがいかなる事業戦略においても重要なことは、その稀少性と模倣困難性にあります!(*詳細はVRIOフレームワークの記事にて)
それを念頭に各戦略について理解して頂ければと思います。
今回のポイント
・垂直統合戦略によって自社の戦略上の立ち位置を明らかにすることが出来る ・垂直統合へのカギは機会主義と取引特殊性にあり |
垂直統合とは
垂直統合とは、
自社がバリューチェーンの中で、どれだけの活動に携わっているか、その度合いを表したもの
です。
一社で原材料の調達から、製造、流通、及び販売まで全てカバーしていた場合、その企業の垂直統合度合いは極めて高いと言えます。
垂直統合の度合いを高める方法は、前方統合と後方統合の2種類に分けられます。
これは石油業界を例にしていますが、より川上の方の事業活動にも進出することを後方統合、川下の事業活動に進出することを前方統合と言います。
こうした垂直統合の度合いによって、企業がバリューチェーンにおいてどの活動をカバーしているのか、言い換えれば業界における自社の立ち位置を把握することが出来ます。
前回、リソース・ベースト・ビューの部分でバリューチェーン分析について解説しましたが、自社の経営資源を明確化する上でこの垂直統合の度合いは極めて重要な考え方と言えます!
尚、よく似た名前で水平統合という戦略があります。
これは垂直統合と違い、M&A等を通じて特定の事業活動を行う企業が一体化することを言います。
最近は、垂直統合よりもむしろ水平統合を行うケースが増えてきているのかな…と言う印象です。
これに関してはまた記事後半で。
なぜ垂直統合を行うのか
企業が垂直統合戦略を推進する要因として、機会主義の脅威が考えられます。
ポーターの5つの競争要因で出てきた売り手と買い手の脅威を思い出して頂くと分かりやすいかと思います。
企業にとって売り手(サプライヤー)は常に自社のコストを押し上げる(例:高い値段で原材料を売りつけてくる)脅威を孕んでおり、買い手は自社の利益を減少させる(例:自社の製品をなるべく安く買い付けようとする)脅威を孕んでいます。
このように他社とのパワー関係によって取引主体が不公平に搾取される脅威を機会主義の脅威と呼びます。
こうした脅威をなるべく低コストで最小化しようとした場合、垂直統合の度合いを高めることが有効策の一つになるわけです。
では、この機会主義の脅威とはどういったケースが考えられるのか。
以下で簡単に触れたいと思います。
取引特殊な投資
ある取引において行われた特定の投資が、その取引においてのみ価値を持つ場合、その投資は取引特殊な投資であると言えます。
字面だけでは何のこっちゃよく分からないので、事例を考えてみましょう。
事例
→自社が製品の生産ラインを提供している企業であり、今回A社の限定販売のおもちゃを製造するための生産ラインを提供する契約を結んだとします。 |
上記の取引の場合、自社が投資を行い製造した生産ラインはA社の限定商品製造という取引においてのみ価値を持つのであり、他社との取引には何の利用価値もないことになります。
この時、A社は自社に対して非常に強いパワーを持っていることになり、おそらく限界まで買取価格を下げにかかってくるでしょう。
なぜなら、A社との取引が断絶すれば、自社が行った製造ラインへの投資は無駄になってしまうからです…。
こうして自社はA社に不公平に搾取されることになります。
これが取引特殊な投資による機会主義の脅威です。
取引特殊な投資による機会主義の脅威に晒された場合、企業には垂直統合の度合いを高めるインセンティブが働きます。
事例の場合は、自社で最終製品の製造から販売まで行う前方統合を推進することになります。
不確実性と複雑性
企業間の取引は往々にして不確実性や複雑性を内包しています。
契約時点では双方何の不満がなかったとしても、時間が経過し市場や需要の動向がした時、どちらか一方が不利益を被る可能性は十分に考えられます。
また、契約の抜け穴を通じて、取引相手をだましたり不当な条件を突き付けてくるリスクもあります。
こうした取引の不確実性や複雑性に起因したリスクが、垂直統合戦略によるコストよりも大きかった場合、企業にとって垂直統合の度合いを高めるインセンティブが働くことになります。
ちなみに、スポーツのルールのように公平且ついかなる状況にも対応可能な完ぺきな契約のことを完備契約と言います。
ただ、言うまでもなくビジネスの場において完備契約というのはほぼ存在しないと言って良いでしょう。
持続的な競争優位と垂直統合
ここまで、垂直統合戦略の概要、及び同戦略を引き出す要因について解説してきました。
しかしながら、垂直統合戦略によっていくら機会主義の脅威を最小化したとしても、それが競合他社との競争優位に働かなければ意味がありません。
垂直統合戦略が他社に対しての持続的競争優位になる上で重要な点としては以下の2点が考えられます。
① 不確実性や複雑性を把握する能力
② 機会主義的性向
まず、自社を取り巻く不確実性や複雑性を適切に把握しなければ、垂直統合の方向(前方か後方か)やその度合いを正しく認識することが出来ません。
バリューチェーンにおいて不確実性や複雑性を排除し得る適切なポジションを確保出来る企業は、そうでない企業と比べて競争優位に立てる可能性が高いと思われます。
また、取引相手の機会主義的性向を知覚することも垂直統合戦略では重要になってきます。
垂直統合の度合いを高めるにしても、機会主義的性向が低い(相手をだましたり、不公平な取引を持ち込む可能性が低い)企業と取引を行うことで、垂直統合に掛かるコストをより抑えることが可能になります。
これらの能力は言ってしまえば経営陣の能力や経験と言った「見えざる資産」に依る部分が多いため、十分に発揮されれば他社にない稀少性や、模倣困難性を生み出すことになります。
垂直統合戦略の限界と代替策
取引特殊な投資を行う場合や、他社との契約に不確実性や複雑性が存在し、そのリスクが極めて大きい場合、垂直統合戦略は有利な選択肢になり得ます。
また、垂直統合の度合いを高めることによって企業が持つ競争優位の源泉を囲い込むことも可能になります。
しかしながら、垂直統合戦略にもデメリットが存在します。
垂直統合戦略のデメリット
主要なデメリットとして、柔軟性の欠如を挙げることが出来ます。
前回、機会の分析の回で取り上げた「超競争業界」を想定してみて下さい。
市場のニーズや需要の変化が予測不可能で、且つ多くの競合他社が存在するこの業界では状況に合わせていかにスピーディーに事業形態や管理体制を変化させることが出来るかが重要になってきます。
仮にこうした業界で垂直統合の度合いを高めたらどうなるでしょうか?
おそらく簡単には事業や管理体制を変更させることは出来なくなるでしょう。
そんなことをしたら、多額のコストを掛けて進めた垂直統合が無駄になってしまうからです。
昨今のコロナショックに代表されるように市場環境や消費者ニーズが短期間で大きく変化する現在において、企業にとって垂直統合戦略へのインセンティブは下がりつつあると考えられます。
垂直統合戦略の代替策
垂直統合の代替策として、逐次契約が考えられます。
この契約は、契約の期間を比較的短期間に設定し、満期が来たら必要に応じてその都度契約を更新するといった契約形態のことです。
プロ野球とかスポーツ業界ではこの契約形態が採用されていますよね。
垂直統合戦略への引き金となる機会主義の脅威や、不確実性、複雑性は契約期間が長ければ長い程そのリスクが高まります。
しかしながら、契約金が短ければその間の市場予想を立てることが比較的容易になり、リスクを抑えることが可能になるでしょう。
企業戦略について学びたい方へ
本記事を執筆する上で参考にしている書籍を紹介させて頂きます。
本書では、記事に書ききれなかった多数の事例や、各フレームワークの更なる詳細を読み解くことが出来るため、戦略論に関心がある方は是非とも手に取って頂きたい書籍になっています。
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企業戦略論(中(事業戦略編)) 競争優位の構築と持続 [ ジェイ・B.バーニー ]
最後に
では、ここまでお話ししてきた内容をまとめておきます。

・垂直統合の度合いによって、バリューチェーンにおける自社の戦略的立場を把握することが出来る。
・取引特殊な投資や、取引における不確実性や複雑性のリスクが大きい場合、垂直統合戦略は効果を発揮する。
・しかしながら、垂直統合の度合いを高めることは柔軟性を失うことでもある。
今回も最後までご覧いただきありがとうございます。
ではまた。