どうもいけちゃんです。
前回は、SCPモデルを使った業界の構造分析と、SWOT分析における脅威(Threat)を業界レベルで分析するための5つの競争要因(Five Forces)についてお話ししました。
外部環境におけるこれら5つの脅威は、業界の競争レベルを高め、それと同時に企業のパフォーマンスを押し下げようとする圧力であると考えることが出来ます。
そのため、企業としてはこれらの圧力をいかに弱めるかというのがより高いパフォーマンスを追求する上で重要になってきます。
そこで今回は、業界における各脅威について分析したいと思います。
今回のポイント
各脅威の内容を把握し、脅威に対する企業戦略を抑える! |
新規参入の脅威
新規参入の脅威とは、その業界で事業を始めたばかり、あるいは、これから始めようとする企業が、業界の既存企業のパフォーマンスを脅かすことです。
日本を代表するトヨタや日産だって、20世紀初頭にGMとフォードが確立した米国を中心とした自動車産業に参入していった新規参入者だったのです。その後、韓国のヒュンダイやインドのタタ自動車など新規参入が次々となされていきました。
この様に、業界への新規参入が起こる理由は、
・業界の既存企業が、標準を上回る利益を享受していること
・参入に掛かるコストよりも、参入することで期待される利益の方が大きいこと
が考えられます。
逆に言えば、参入に掛かるコストが高ければ、既存企業は新参者を排除し、これまで通りの高い利益を継続的に得ることが可能になります。
つまり、参入障壁をいかに高くするかが既存企業にとっては重要な戦略になるわけです。
では、どういった要素が参入障壁となるのでしょうか?
主要な要素としては以下の5つを挙げることが出来ます。
・規模の経済の確立
・製品差別化 ・参入に対する意図的な抑止 ・規模に無関係な優位性の保持 ・政府による規制 |
業界への参入障壁について
上記5つの要素について、規模の経済や製品差別化については広くよく知られた要素であり、今後コストリーダーシップ戦略等について解説する際に詳細を説明する予定のため、本記事では紹介に留めておきます。
また、政府による規制については、例えば1970年代までのアメリカ航空業界や、日本でのパチスロ業界、造酒業界などが挙げられます。
ここでは、あまり馴染みのない
・規模に無関係な優位性の保持
・参入に対する意図的な抑止
について触れておこうと思います。
規模に無関係な優位性の保持
先ず、規模に無関係な優位性とは、例えば、独自の占有技術、ノウハウ、原材料の有利な獲得手段、事業を行う上で有利な立地、更には学習効果によるコストの低下が考えられます。
規模の経済性や製品差別化を高めるためにはやはりある程度の投資が継続的に行える企業規模が前提となっていますが、上記に挙げた要素は規模に関係なく企業が持ち得る強みになります。
土地や原材料の調達経路などは、その価値が不透明な状況下では安く買うことが出来ますが、業界が成長しその真の価値が認められるやいなや、新規参入者が新たに購入するには非常に莫大なコストが掛かることになります。
また、占有技術やノウハウ、更には学習効果(*コストリーダーシップ戦略の回で解説予定)については、取得するまでにコストのみならず多大な時間を要することでしょう。
こうした要素は、規模に関係なくあらゆる企業が持ち得る特徴であり、新規参入者にとっては無視できない大きな参入障壁になると考えられます。
参入に対する意図的な抑止
規模の経済や、製品差別化、及び規模に無関係な優位性は、言わば自然発生的な参入障壁と考えることが出来ます。
つまり、規模の経済にせよ、製品差別化にせよ企業が業界内における競合他社に対していかに優位に立つかを主眼とした戦略が、結果的に業界への参入障壁を高めることに繋がったということです。
では、これらの戦略が浸透していない業界が、新規参入者を阻もうとした場合、どうすればいいのでしょうか?
そこで考えられるのが、意図的な抑止です。
例えば、製品差別化に集中投資を行ったり、必要以上に生産能力を高めたりして、「業界に入ってきたら、厳しい競争に晒されるよ」というシグナルを意図的に送ることが考えられます。
ただ、結論から言うとこの意図的な抑止は多くの場合行われず、往々にして新規参入者を受容するケースがほとんどです…。
理由としては、
・意図的に抑止するためには、そのための特殊な投資を相手に伝わるような形で行う必要がある。
・しかしながら、そうした投資に掛かるコストは、新規参入者を受容することで発生し得る損失を上回っている。
からです。
こうしたことから、意図的に新規参入を抑制するためにはある程度の企業規模が必要になる上、適切に行わないと逆効果になるため、非常に難易度が高い手段と言えます。
競合他社の脅威
新規参入者の脅威については重要な要素が多かったため枠を割きましたが、ここからはサクサク進めたいと思います。
競合他社の脅威については、前回ご説明したSCPモデルを考えて頂ければと思います。
SCPモデルの図を再掲しますが、当然のことながら一番上の完全競争に近づけば近づくほど競争が激化し、競合の脅威も大きくなると考えることが出来ます。
表にも記載の通り、製品差別化や規模の経済によるコストリーダーシップ戦略は、参入障壁を築くためと言うよりも、寧ろ競合他社への競争優位のための戦略と位置付けられます。
代替品の脅威
代替品とは、自社や業界の顧客のニーズを、異なる方法で満たすサービスのことを指します。
身近な例で言えば、自動車業界にとって「移動したい」という顧客ニーズの観点からすればバスや、電車は代替サービスです。
また、カメラ業界にとって携帯の写真機能の発達は脅威的な代替品であったと言えます。
こうした代替品は、既存企業に対して価格の上限をもたらすことになるでしょう。
遠距離の移動手段が仮に自動車しかなければ、いかに価格が高くても顧客は車を買わざるを得ません…。
しかしながら、現代のように様々な交通手段が整備された時代では自動車の価格が高いと思った顧客は代替品を利用する方を選択する可能性が高くなります。
また、代替品は時に既存の製品やサービスのほとんどを置き換えてしまうこともあります。
例えば、デジタルカメラの誕生によって既存のフィルムカメラはほとんど姿を消してしまいました。
売り手(サプライヤー)の脅威
これから説明する売り手、及び買い手の脅威を考える上では、中間生産物を扱っている業界をイメージして頂けると分かりやすいかと思います。
本記事では、自動車に使われるエンジンを製造するメーカーを例に考えてみたいと思います。
エンジンメーカーにとっての売り手(サプライヤー)は、エンジンを構成する部品を作るメーカーになります。
エンジンメーカーにとってサプライヤーが脅威となる場合には以下の要因が考えられます。
・売り手の企業が少数しか存在しない
・売り手の製品が極めて特殊か、或いは高度に差別化されている ・売り手が代替品の脅威に晒されていない ・売り手が前方統合する可能性 ・売り手にとって自社が数ある顧客の中の一社に過ぎない場合 |
売り手が自社に対して上記のような優位性を持っている場合、言わば足元を見られ、高い値段で部品を売りつけてくる脅威が発生します。
こうした売り手の脅威に対して、エンジンメーカーは後方統合戦略によって自前で部品を製造する手段が対策として挙げられます。
買い手の脅威
売り手の脅威が自社のコスト増加を招くのに対して、買い手の脅威は自社の利益を減少させる可能性があります。
エンジンメーカーにとっての買い手とは、もちろん自動車メーカーですが、その買い手が脅威となる場合、以下の要因が考えられます。
・買い手企業が少数しか存在しない
・買い手に販売している製品が差別化しれていない標準品である ・買い手に販売される製品価格が、買い手の最終コストの一定以上を占めている ・買い手が後方統合をする可能性 |
買い手は常にいかに安く仕入れるかを考えています。
そのため、買い手が優位に立った場合、これまた足元を見られ、自社製品を安く売らざるを得なくなってしまいます…。
こうした買い手の脅威に対する対策としては、前方統合戦略によって、自社で完成品まで製造するという方法が考えられます。
5つの競争要因(Five forces)のまとめ
ここまで、SWOT分析における脅威(Threat)を考える上で有効なフレームワークである5つの競争要因についてお話ししてきました。
脅威を分析することで、業界の競争度が判明し、それに応じた戦略が何かを導き出すことが可能になります。
戦略の例としては先に挙げた、製品差別化や、コストリーダーシップ戦略、前後方向への垂直統合がそれに該当します。
各戦略については別記事で詳細を解説予定です!
企業戦略について学びたい方へ
本記事を執筆する上で参考にしている書籍を紹介させて頂きます。
本書では、記事に書ききれなかった多数の事例や、各フレームワークの更なる詳細を読み解くことが出来るため、戦略論に関心がある方は是非とも手に取って頂きたい書籍になっています。
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・楽天
企業戦略論(上(基本編)) 競争優位の構築と持続 [ ジェイ・B.バーニー ]
最後に
では、最後にここまでお話ししてきた内容をまとめておきます。

・5つの競争要因(Five forces)を分析することで、業界における脅威の度合いを測ることが可能となる。
・脅威の度合い、及び業界の競争度によって取るべき戦略が見えてくる
今回も最後までご覧いただきありがとうございます。
ではまた。