どうもいけちゃんです。
前回まではSWOT分析における脅威(Threats)が何であるかを明らかにするための道具である5つの競争要因について解説してきました。
今回は、次なる外部要因である機会(Opportunities)の分析について解説したいと思います!
今回のポイント
各業界の特徴を理解し、どんなビジネスチャンスあり、機会を活かす上でどんな戦略が有効かを抑える! |
8つの業界構造
どんな機会があり、どんな戦略が有効かは自社が身を置く業界によって多様であることは、前々回のSCPモデルの回で述べてきました。
5つの競争要因を提唱したポーターは機会の分析において、SCPモデルを基に業界を以下の5つの構造に分類しています。
・市場分散型業界
・新興業界 ・成熟業界 ・衰退業界 ・国際業界 |
更に、近年多くの研究がなされている3つの業界構造である、
・ネットワーク型業界
・超競争業界 ・コアなし業界 |
を足した計8つの業界に関して各業界の特徴や、期待される機会や企業戦略について考察していきます。
(*要点のみをまとめています。詳細は記事後半で紹介している参考図書をご覧ください)
市場分散型業界
特徴:市場シェアの大部分や主要技術を占有するような企業が存在しない業界
チャンス:企業の集約と統合
参入障壁が低い業界や、技術や知識が標準化されているような業界がこうした特徴を持っていると考えられます。
実際の業界としては、小売業とか飲食業界などが該当するでしょう。
比較的小規模な企業が無数に存在しているこの業界における機会とは、「集約統合戦略」が挙げられます。
文字通り、多数の小規模な企業を少数に集約する戦略です。
この戦略によってより多くの市場シェアを獲得した企業には、シェアが小さい企業に対して圧倒的なコスト優位性が存在します。
(*コストリーダーシップ戦略の回で詳細解説予定)
一方で、注意すべき点としては、統合によるコストと、統合によって期待される利益との兼ね合いを常に見極める必要があるということです。
新興業界
特徴:技術革新や、需要の変動、或いは新たなニーズの顕在化によって誕生した業界
チャンス:先行者優位
通信技術やAIの発達、更には昨今のコロナ禍によって様々な技術革新や需要の変化によって新しい業界が誕生しています。
こうした業界における機会とは、業界の先駆者になることが考えられます。
所謂、先行者優位とは以下の要素が挙げられます。
①技術の蓄積
②資源の先取り
③スイッチングコストの確立
です。
先行者優位について
・技術の蓄積
最初に業界で先行者となった企業は、後発企業よりも早く、多くの技術や知識を蓄積することが出来るため、低コストでの生産が実現可能になります。
また、新興業界ならではの特殊な技術を先んじて開発することで特許を取得し、それが後発他社にとっての優位性になる可能性も考えられます。
・資源の先取り
先行者になることで、価値ある資源を先取りすることが出来ます。
これは、前回の参入障壁の部分でお話しした、「規模と無関係なコスト優位性」の獲得を意味します。
例えば、戦略上有利な立地や販売経路などです。
先行者は、こうした資源の真価がまだ不明瞭な内に比較的安価に入手できる可能性があります。
逆に後発者がこうした資源を手に入れようとした場合、価値と同等の高い対価を払わなければなりません。
・スイッチングコストの確立
スイッチングコストとは、今現在利用しているサービスや商品から、新たなものに乗り換える際に顧客が被るであろう不利益のことを指します。
先行企業の商品やサービスに慣れ親しんだ顧客は、余程理由がない限り後発企業の別の商品やサービスに乗り換えるのは困難と言えます。
なぜなら、乗り換えるに際してまた新たに使い方などを学習しなければならないからです。
スイッチングコストの事例としては、以前アップしたエムスリーが最たる事例ですので、ぜひそちらを読んで頂けたらと思います。

成熟業界
特徴:新製品や、新技術の成長スピードが鈍化した業界
チャンス:製品やサービスの改良や品質向上
新興業界で誕生した新たな商品やサービスが世の中に広く普及し、技術や知識が他社に拡散すると共に革新が鈍化すると、業界は徐々に成熟へと向かうことになります。
こうした業界では、既存の商品やサービスの改良や品質の向上を図る戦略が効果的と考えられます。
同じような商品やサービスが普及していても、例えばアフターサービスといった顧客サービスが他社よりも優れていれば、それだけでも差別化の要因となるため標準以上の利益を得ることが可能になるでしょう。
また、製造プロセスに磨きをかけることで、コスト削減や納期の短縮につながる可能性も考えられます。
衰退業界
特徴:業界全体の売上が継続的に減少傾向にある業界
チャンス:撤退か残留
成熟期を経て、売上が頭打ちになり徐々に市場規模が減少基調に入ると、業界はいよいよ衰退期になります。
こうした業界では主に二つの選択肢が用意されています。
1つは撤退、もう一方は残留です。
まず、撤退についてですが、撤退も立派な戦略の一つです。
ただ撤退と言っても、キッパリと事業売却などで短期間で撤退するのか、或いは出来る限り利益を確保しつつ時間を掛けて撤退する(収穫戦略)のかで分かれます。
他方、残留もまた有効な戦略と言えます。
衰退しているとは言え、完全にその業界が消滅するわけではありません。
残留方法として1つには、業界再編が挙げられます。
衰退業界では企業は往々にして過剰能力(需要<供給)の状態に陥っています…。
そこで、企業買収等を経て業界を再編し、市場のリーダーになればある程度の利益は確保できるでしょう。
更に言えば、一度衰退しても再度需要が回復することもあり得ます。
その際にリーダーの立場を確立していれば標準以上の利益を得ることが出来ます。
残留の別の方法としては、ニッチ戦略が挙げられます。
衰退によって他社が撤退する中で、事業範囲を狭く絞り、特定分野に特化する戦略です。
特殊な事業分野には競合が極めて少ないことから、業界全体が衰退していたとしてもある程度の利益の確保は可能になります。
国際業界
特徴:競争の国際化が進んでいる業界
チャンス:国内にはない新たなビジネス機会をもたらす
今や、多くの企業がこの国際業界に身を置いています。
国際化が進むことで、新規参入や代替品などの脅威はより一層強くなります。しかしながら、それと同時にチャンスもまた増えるのも事実です。
国際業界における戦略は大きく2つに分けられます。
✓マルチナショナル戦略
→地域毎に独立した事業展開を行っている。
現地法人には自由裁量が与えられており、地域毎のニーズに対応可能。
しかしながら、本社の経営方針や理念が浸透しにくくブランドイメージを損ねる危険性がある。
✓グローバル戦略
→マルチナショナル戦略とは逆に、自国の本社を中心に生産や流通などの経営機能を全世界レベルで最適化しようとする戦略。
管理がしやすく、経営方針も浸透しやすい。
しかしながら、地域毎の特性や問題を反映することが困難であり、且つ管理範囲が広いためコストが掛かる。
以上の2通りになります。
いずれも一長一短あり、どちらが優れているというわけではありません。
国際化によって期待される新たな機会が、一括管理可能なものなのか、或いは特殊性の強いものなのか等によって戦略を選択する必要があります。
ネットワーク業界
さて、ここまではポーターが提唱した5つの業界についてお話ししてきました。
ここからは、近年多くの議論がなされている3つの業界について考えていきたいと思います。
先ずは、ネットワーク業界についてです。
特徴:製品やサービスの価値が、その販売量やユーザー数によって大きく左右される業界
チャンス:先行者優位
この業界では、製品やサービスの普及度がその品質や価値に多大な影響を及ぼす業界のことを言います。
こうした作用のことをネットワーク外部性と言います。
先のエムスリーの記事の中でもネットワーク外部性について言及しています。
身近な例で言えば、スマホが挙げられます。
iPhoneやGalaxyの性能やアプリケーションの数は日に日に増していますが、それはその製品を使う人が増加しているからです。
逆にユーザーが減っている国産スマホの性能は、アップルやサムスンに圧倒的に後れを取っているのが実情です。
いかにユーザーを獲得するかが重要なネットワーク業界では、先行者優位によって他社に先駆けて自社製品やサービスを普及させ、それを標準化(デファクトスタンダード)させることが極めて有効であると考えられます。
スイッチングコストのところでも述べましたが、一旦使い慣れてしまうと新たな製品やサービスに乗り換えることに対して人は消極的になりがちです。
超競争業界
特徴:競争状況が常に不安定で予測できない業界
チャンス:柔軟性の確保、先制破壊
市場環境が、非常に短期間で新興から成熟、衰退へと移行し、またすぐに新興が誕生するといったような、業界構造の変革が激しく、予測困難な状態を超競争業界と言います。
こうした業界では以下の2つの戦略が有効であると考えられます。
✓柔軟性の確保
→業界の変化に素早く対応するべく、既存の戦略から他の戦略へと短期間で且つ低コストで移行できるようにすること。
他の業界の企業と比べて垂直統合度は低い。
例えば、従業員に対して特定の専門技術ではなくより汎用的な研修訓練を設けたり、或いは正社員ではなく臨時雇用を多用するなど。
✓先制破壊
→自らが、業界の変化を支配するような戦略。
具体的には、自社の製品やサービスに対して、すぐに新たな物を出すことで、敢えて自社の製品やサービスを陳腐化させること。これによって、業界の競争プロセスをコントロール出来るようにする。
コアなし業界
特徴:売り手と買い手の双方が最適だと思える条件での取引が成立しない業界。
チャンス:政府規制、暗黙的談合
通常、モノやサービスの値段は、売り手と買い手の双方が可能な限り最適な条件だと思えた点で決定され、その成立点を「コア」と言います。
しかしながら、市場予測が困難でありながら、上記で述べた柔軟性が欠如している(例:固定費が高い、生産量の微調整が出来ない)、更には差別化が難しいと言った条件下では、コアが一向に成立しない場合があります。
こうした業界では、最悪業界の平均コスト以下に価格が設定しれてしまう、破滅的競争が引き起こされてしまうリスクがあります。
それを防ぐ戦略としては、業界内での暗黙的談合によって破滅的な価格設定を回避したり、或いは政府規制を敷いてもらうといった方法が考えられます。
SCPモデルと業界構造分析の限界
ここまで、SWOT分析における外部要因である脅威と機会を明らかにするために、SCPモデルを基にした業界構造分析や、5つの競合要因などのフレームワークについて説明してきました。
当然のことながら、これらの理論や考え方は完ぺきではありません。
SCPモデルも、ポーターの5つの競争要因もいずれも“業界”単位での話です。
しかしながら、業界と言う括りは曖昧な概念であり、同じ業界でも状況やそれに応じた戦略にも違いがあるはずです。
また、これらの理論から直接的に個別具体的な戦略が導き出せるわけではありません。
あくまで、適切な戦略を選択するための土台に過ぎないのです。
しかしながら、これらはビジネスマンとして絶対に知っておくべき知識ですので、必ず押さえておくようにして下さい!
企業戦略について学びたい方へ
本記事を執筆する上で参考にしている書籍を紹介させて頂きます。
本書では、記事に書ききれなかった多数の事例や、各フレームワークの更なる詳細を読み解くことが出来るため、戦略論に関心がある方は是非とも手に取って頂きたい書籍になっています。
・Amazon
・楽天
企業戦略論(上(基本編)) 競争優位の構築と持続 [ ジェイ・B.バーニー ]
最後に
では、ここまでお話ししてきた内容をまとめておきます。

重要なことは、適切な戦略を選択するためのツールとして理論やフレームワークを使うことである。理論やフレームワークに当てはめるだけでは正解には辿り着けない!!
今回も最後までご覧いただきありがとうございます。
ではまた。